【書評】ステップアップポーカーを読みました

2016-06-03 ゲーム

しばらくポーカーから離れていたのですが、最近また興味が湧いてぼちぼちとプレイし始めました。
以前はPokerStarsメインだったのですが、最近は888 Pokerで遊んでいることが多いです。
大体のページが(多少怪しいですが)日本語化されていてとっつきやすいことと、ボーナス条件・プレイヤーレベルの両面で割とゆるいので再入門にちょうどよい感じ。
総じてトーナメントでは勝ってるけどキャッシュでは負けてる、みたいな状況なので、もう少しキャッシュゲーム(特に6max)のプレイを勉強しないとなぁという今日このごろです。

再開にあたり、1,2年くらいまともにプレイしておらず戦略もだいぶ忘れてしまっていたのでリトルグリーンブックあたりを読み返そうかと思ったのですが、ちょうどステップアップポーカーがKindle新刊で出ていたので読んでみました。

ステップアップポーカー ──脱定番ルールで相手を出し抜け
ステップアップポーカー ──脱定番ルールで相手を出し抜け アニー・デューク

パンローリング株式会社 2016-05-20
売り上げランキング : 3489

そもそも和書のポーカー戦術書は数が少なく、せいぜい両手の指にちょっと余る程度しか出版されてないのですが、この本はその中でも得るものが多いと感じました。
せっかくなので少しレビューを書いてみたいと思います。

さて、この本は「脱定番ルールで相手を出し抜け」とある通り、定番ルールを知っていることが前提になっていて、オッズやレンジなど初中級の戦術用語がほとんど説明なしに出てきます。
大体レベルとしてはリトルグリーンブックトーナメントポーカー入門あたりを読んだ方がターゲット層でしょうか。

本の内容としては、キャッシュ・トーナメントの区別なく「ハンドをプレイするべきか、するならどのようにプレイするか」の判断基準について、ベッティングラウンドやポジション、ハンドごとに例を上げながら解説していくものになっています。
基本的には数学的な考え方に重点を置いており、割と説得力があります。

個人的に面白いな、と思ったのはインポジションでトップペアを引き当てたときのリバープレイについて。
カットオフからAQoで3BBにレイズしてBBがコール、フロップがドライボードでトップヒット、みたいな状況を考えてみます。

Pot: 6.5BB

Hero:

AcQh

Flop:

As9d3h

ここでBBがチェックした場合、CBとしてハーフポット程度を打つのが普通の流れでしょう。
ところが、ここでBBがコールしたとしましょう。
そして、ターンにはラグが出ました。

Pot: 13BB

Hero:

AcQh

Flop:

As9d3h5c

ここでBBからチェックで回ってきた場合、「ほとんどのプレイヤーはここでベットします」と書かれています。
実際自分もバリューを取るためと考えてベットすることが多かったのですが、著者いわく「ベットしたいと駆り立てられる思いを抑えてチェック」するのが薦められる戦略らしいのです。

というのも、ボタンのプレイヤーがドライボードにもかかわらずフロップでコールしている以上、ドローではなく何らかの完成ハンドを持っている可能性が高く、この局面でのAQはAJやT9などを相手にした非常に強い手であるか、AKや99などを相手にした非常に弱い手であるか、のどちらかだと考えられます。
このとき、ターンで自分からベットしてしまうとAKや99などには自分からバリューを譲ってしまうことになります。
またAJやT9などは2度目のベットに直面することでうまくフォールドするきっかけを得てしまったり、あるいは勝ち目がないと見てブラフ3ベットを入れてくる可能性もありえます。
このとき問題になるのは「相手の3ベットが強いハンドからか弱いハンドからかわからない」ことで、3ベットをコールすれば大きなポットを前にリバーを主導権なくプレイすることになり、フォールドすると本来取れたはずのポットを失うことになるかもしれません。
このように「自分の立ち位置がわからない」状況でアクションを起こすよりは、チェックしてリバーで下のハンドからのベットを引き出しつつ上のハンドへの損害を抑えるのがいいだろう、というのです。

言われてみると確かに、こういった局面で3ベットを返されて決断に困ることはよくあります。
そう考えてみると、「小さく勝って大きく負ける」を避けるためにポットコントロールするという観点でチェックを返すのは理に叶っている気がしました。

他にも「取れるはずのポットを失うのはバリューを取り逃す以上のミス」であるとか、「コールがアグレッシブなアクションになることもありうる」など、いろいろと面白い話が載っています。
他の本とは違った観点が多く、何度か読み返して身につけたいと思う部分の多い本でした。

ただし、いくつか気になる点もあります。

まず、翻訳が微妙な部分が多いです。
中でも「フロップを安くでみられる」という表現が頻出するのは違和感がありました。
普通に「安くみられる」あるいは「安価にみられる」で良かった気がするんですが、翻訳者の方のこだわりなんでしょうか…
他にも微妙な言い回しがちょいちょい見られたり、括弧書きが多く文意を捉え辛かったり(こちらは原文の問題かもしれない)と、さらさら読み進めるには支障になりそうな部分があります。

次に、他のポーカープレイヤーを下に見るような言い回しが多いこと。
これは他のポーカー本でもありがちではありますが、個人的にはあまり気分のいいものではないです。
また、これに感化されて他のプレイヤーを甘く見る癖がついてしまうと、悪いプレイにつながってしまいそうな気がしました。

最後に、議論の中で数学的な根拠と数学的でない根拠が入り混じること。
例えば、上述の「トップペアでフロップでコールされたらターンではチェック」という話では「相手がフロップコールした時点で、ターンまで見てもオッズの悪いコールをしているのでターンでのプロテクトは必要ない」と数学的な論拠を提示していますが、フロップでレイズされた場合については「モンスターを引き当てたプレイヤーはスロープレーしたがるから、ここでは大抵弱いハンドを持っているのでリレイズするべき」と、印象論を根拠にしていたりします。
若干悪意をもって読むとダブルスタンダードに感じられるかもしれません。

まぁ、そのあたりを差し引いても個人的には発見の多い本だったので満足です。
「入門書の戦術を忠実にこなしているけど、いまいちうまくプレイできている気がしない」みたいな、タイトウィーク寄りのABCポーカープレイヤーが読むと得るものが多いかな、と思いました。